眠れぬ夜に安らぎを〜泉鏡花の妖し(あやかし)物語
By 波華〜namika〜
明治・大正・昭和初期にかけて薫り高い名作のかずかずを紡いだ作家、泉鏡花。
その作品の朗読を、四季折々の自然の音に乗せて送ります。幻想的な作品から日常を描いたエッセイまで。
鏡花ならではの耽美な世界と日本のたおやかな情緒をお楽しみください。
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眠れぬ夜に安らぎを〜泉鏡花の妖し(あやかし)物語Sep 30, 2022
黒猫・その23
「黒猫・その22」
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のつづき。
お小夜を守り切り、ともに山を下りたお島は、その足で画師の二上秋山の家を訪ねる。
お互いに思い合うお小夜と秋山を引き合わせたお島は、秋山宅の座敷を借りてお小夜の髪を結い始めた。
仕上がった髪形を見てお小夜は驚く。それはお島一世一代の贈り物でもあった―――
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蓑谷
【明治29年発表】
蛍を追いかけいくうちに友人とはぐれ、迷い込んだ蓑谷。
美しい女神が護るその場所では蛍を獲ってはならないーー母親からの教えに背いてしまった「私」の前にすらりと立つ女性が現れる。
湧き出でる水に支配された宵の魔所。
蒼茫の中から浮かび上がる美女。
蛇や仏を思わせる、侵し難くも不気味な風景と、神とも妖ともつかぬ山姫との邂逅。
どうしても蛍が欲しくてたまらない「私」は、蓑谷の主に冀(こいねが)うのだったーー
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黒猫・その22
【明治28年発表】
「黒猫・その21」のつづき。
自らが犯した罪を悔いるお島。
お島自身が富の市の妻となることで
富の市(とみのいち)の
お小夜への邪な企てを何とか踏みとどまらせようとするも
命懸けで想いを遂げようとする富の市には通用しない。
思い詰めたお島は決死の覚悟である行動に出るのだった―――
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黒猫・その21
【明治28年発表】
「黒猫・その20」のつづき。 お島はお小夜の想いに胸を打たれ、富の市にお小夜を諦めるよう詰め寄る。
本懐を遂げんとする目前の富の市は必死で抗うが、お島の決意は固い。
お島はお小夜と富の市を前にして、自身の苦しい恋心とお小夜に寄せる心の間で揺れ動く胸の内を語るのだった―――。
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黒猫・その20
「黒猫・その19」のつづき。
富の市の執念から逃れられないと観念したお小夜は
心に秘めていた思いをお島に語りだす。
お小夜には想い人があることを知ったお島は
片恋の苦しさを知る同士として
心を動かされるのだった
さらにお小夜が恋焦がれる相手の名前を口にすると
お島は青ざめ、震えるのだった---
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黒猫・その19
髪結いのお島の計らいによって
縛を解かれた令嬢・お小夜は
富の市に向かい、語り始める。
自身を顧みず
卑しい執心に憑りつかれた富の市を哀れむお小夜。
その健気さにお島は心を打たれ、
懺悔の念にさいなまれるのだった―
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道中一枚繪 その一・後編
「道中一枚繪 その一・前編」のつづき。
前編「道中一枚繪 その一・前編」はこちらから聴けます。→https://anchor.fm/u6c34u6708/episodes/ep-e1smvuh
弥次郎兵衛と喜多八は正月五日に
静岡県の久能山へ登り、
徳川将軍家ゆかりの東照宮へと参詣する。
曲がりくねった参道の石段を登り
眼下に広がる絶景に心を潤す二人。
と、向こうから石段を登ってくる華やかな3人連れを見つけた弥次郎兵衛が慌て出すのだったーーー
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道中一枚繪 その一・前編
東海道中膝栗毛の弥次郎兵衛と喜多八に自身をなぞらえた旅行記。
喜多八(泉鏡花自身)と弥次郎兵衛(鏡花の叔父)は、大晦日の晩に箱根の環翆楼に逗留。
宿の女中を相手に年が明けるまで酒を飲んだ翌朝、二日酔いで正月の祝膳を迎える。
その料理の中に、結納品と同じ「友白髪」という名の珍しい料理を見つけるのだった。
さらに箱根を後にした東海道線の列車では、先日結婚したばかりの友人と偶然乗り合わせる。
その友人に、喜多八はーーー
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黒猫・その18
【明治28年発表】
黒猫・その17のつづきエピソード。
髪結いのお島と盲人富の市の謀略によって
囚われの身となったお小夜。
あわや富の市の毒牙にかかるその手前で
お島が鋭い声を上げて制し、九死に一生を得るのだった。
お島はお小夜の猿轡を外し、思い残すことがあれば託(ことづけ)よと伝える―――
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黒猫・その17
【明治28年発表】
黒猫・その16のつづきエピソード。
お島の罠に嵌り、捕らえられたお小夜。
縛られ、口をふさがれて横たわるその姿を、お島は冷ややかな目つきで見下ろすのだった。
続いてぬらりと現れた盲人・富の市は、お島との誓いを守り、すでに想いを遂げた後に自らの命を絶つ準備を整えていた。
絶体絶命のお小夜。運命を暗示するかのように、お小夜の家のあたりでは、鴉が騒がしく鳴きたてている―――。
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黒猫・その16
【明治28年発表】
黒猫・その15のつづきエピソード。
草木も眠る三更(真夜中)の時間に、人目を忍んで家を抜け出す令嬢・お小夜。
所かまわず付きまとう富の市との縁を切るまじないを行うために、気味の悪い山奥の祠へ足を走らせるのだった。
心を野獣・淫蛇の境に落とした富の市を遠ざけたい一心で、放言極まりない怪しげなまじないを信じ切るお小夜。
繁る夏草に足を取られて躓きながらもようやく祠にたどり着くが、そこに待っていたのは、あろうことか富の市であった―――
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黒猫・その15
【明治28年発表】
黒猫・その15のつづきエピソード。
真夜中の月影に紛れた男女の影がふたつ。
それは、盲人の富の市(とみのいち)と、歪んだ恋路の手引きをする髪結いのお島(しま)であった。
お島は上杉家の垣根を差し覗きながらお小夜の気配を探っている。
まさにその丑三つ(深夜2時ごろ)時に静かに寝返りをするお小夜(さよ)の影があった。
お島に聞いた、富の市と縁を切るまじないを実行に移すために起きだしたのである。
お小夜は隣に眠る弟の秀松や隣室の家族に気づかれないように部屋を出で、するりと扉を抜けて外へと出ていくのだった。
自身が悪魔の生贄になろうとしていることも知らずに―――
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黒猫・その14
【明治28年発表】
黒猫・その14のつづきエピソード。
お小夜(さよ)の髪を結うために上杉家を訪れた髪結い師のお島(しま)。
憔悴しきったお小夜に理由を尋ねると、お小夜の代わりに下女のお三(さん)がしゃべり始める。
聞けば、お小夜の心を悩ませているのは盲人の富の市(とみのいち)であるとのこと。
たびたび上杉家の家屋に上がり込んでは黙って佇んでいる。
乱暴を働くわけではないものの、手の打ちようがないために却って気味の悪さを際立たせているという。
お島はお小夜に、富の市と縁を切る方法をこっそりと伝授する。
それは、夜中、人目につかないように裏の山にある祠に行き、まじないをするというものであった―――。
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黒猫・その13
【明治28年発表】
黒猫・その12のつづきエピソード。
絵師の卵・二上秋山と婀娜な髪結い師・お島は、互いが恋仲になることを断じる「別れの盃」を交わしていた。
秋山への想いを懸命に断ち切ろうとするお島。
そんな折にお島を訪ねて来たものがある。上杉家に使える下女のお三(さん)であった。
お三は上杉の令嬢・お小夜がお島の髪結いを所望しているという。
秋山の想い人を見透かしていたお島は、意味ありげにお小夜の髪を島田髷に結いあげることを告げて秋山宅を後にした。
お小夜の邸宅へと向かう道すがら、お島を呼び止める声。その主とはーーー。
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【眠れぬ夜のおしゃべり】黒猫・その1~その3のあらすじ
眠れない夜やリラックスしたい夜のお供に。
今回は現在も配信中の中編【黒猫】について、その1からその3までのあらすじを振り返ります。
本編はこちらから聴くことができます。
【黒猫・その1】https://anchor.fm/u6c34u6708/episodes/1-e18naa8
【黒猫・その2】https://anchor.fm/u6c34u6708/episodes/2-e19otas
【黒猫・その3】https://anchor.fm/u6c34u6708/episodes/3-e1agsmc
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黒猫・その12
【明治28年発表】
黒猫・その11のつづきエピソード。
二上秋山への想いを断ち切るために、髪結いのお島は別れの盃を交わそうと秋山に申し出る。
酒肴を揃えて秋山と差し向かうと、お島は自分の恋心が実らない理由を今一度尋ねる。
言い淀んでいた秋山だったが、腹をくくると、ひそかに想いを寄せる女性がいることを告白するのだった。
一縷の望みを断ち切られたお島は、秋山への想いが消えるまで、再び会いには来るまいと、きっぱり宣言するーーー。
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黒猫・その11
【明治28年発表】
黒猫・その10のつづきエピソード。
普段は聡明な上杉家令嬢の小夜子が
自身の母と愛猫の黒猫に対しては幼児のようにあどけなく振る舞うように、
絵師の二上秋山もまた、髪結いのお島にだけは心を開いていた。
それは姉と弟のように純粋無垢な感情であったが
お島の方は秋山に対して恋心を抱き、いつかは秋山の妻になること望んでいた。
心に秘めた恋心であったが、ある時、思いがけずお島は秋山に気持ちを知られてしまう。
秋山は毅然としてお島の愛情を拒んだが、お島への信頼は変わらないのだった。
思いつめたお島は、行商の魚屋に言いつけて酒の肴と酒を都合するように計らう。
いぶかしがる秋山に、お島は、これから別れの盃を交わすのだと答えるのだった―――。
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黒猫・その10
黒猫・その9の続きエピソード。
心を許した様子で髪結い・お島に膝枕し、髭を当たって(剃って)もらう秋山。
姉弟ならずも仲睦まじい二人はいかなる関係なのか。
二人は内縁でも夫婦でも、人目を忍ぶ間柄でもなく、性別を超えた信頼で結ばれていた。
秋山は裕福な生家があるものの、商いを継がせたい父兄に反発し、東京の美術学校を卒業した後は絵画の道を極めようとしていた。
生活のために絵を売る秋山の暮らしは苦しく、その日の食糧もままならない。
そんな秋山を見かねたお島が、援けを買って出たのである。
今では肉親以上に心隔てなくお島に接する秋山。
しかしひそかにお島は秋山への想いを秘めていた―――。
黒猫・その9
黒猫・その8の続きエピソード。
お島が訪れた粗末な家。
住まいの主は、新進気鋭の絵師・二上秋山(ふたかみしゅうざん)であった。
六畳間に所狭しと散乱している家具や道具。
そこに埋もれるように、秋山は伏せっていた。
お島は体調を崩した秋山を見舞ったのである。
気心の知れた様子で、仲睦まじまそうに軽口をきき合う二人。
煙管(きせる)に火をつけて燻らせたあと、お島は秋山に勧めるのだったーーー。
黒猫・その8
黒猫・その7の続きエピソード。
富の市の前に現れた謎の女、お島(しま)。
実は腕の良い髪結いで、新橋の名妓・小俊(こしゅん)の嫁入りに付き従って、この田舎町へとやってきたのだった。
お島は金銭にほだされることなく己の眼力で客を選ぶという、見た目に違わぬ気性の持ち主。
土地の富豪の奥方が髪結いを望むのを袖にして向かったのは、粗末なあづまやであった。
そこに住まっていた人物とは―――。
【眠れぬ夜のおしゃべり】竹屋の渡・後編
眠れない夜やリラックスしたい夜のお供に。
泉鏡花の短編【竹屋の渡】について語る 後編 です。
前編から聴きたい方はこちらからどうぞ
anchor.fm/u6c34u6708/episodes/ep-e1cn9t2
※前編 では、作品が発表された明治時代の東京、隅田川沿いの街並みや、主人公が歩いたルートを取り上げています。
今回は、作品に登場する二人の美女について。
ひと時同じ船に乗り合わせただけの美女たち。
身の上などはほとんど語られていませんが、髪型や身につけているものなどを手がかりに、この女性たちの背景を想像してみました。
【竹屋の渡】本編はこちらから聴くことができます
anchor.fm/u6c34u6708/episodes/ep-e1cn67d
リスナーの皆さまの作品解釈や、おすすめの文献もぜひ教えてくださいね。
【使用BGM】冬の窓 music by のる
【眠れぬ夜のおしゃべり】竹屋の渡・前編
眠れない夜やリラックスしたい夜のお供に。
泉鏡花の短編【竹屋の渡】について語る前編です。
【竹屋の渡】本編はこちらから聴くことができます
anchor.fm/u6c34u6708/episodes/ep-e1cn67d
今回は作品が発表された当時の街並みや、主人公が作中で散策したルートをひもときます。
リスナーの皆さまの作品解釈や、おすすめの文献もぜひ教えてくださいね。
【使用BGM】冬の窓 music by のる
【泉鏡花】竹屋の渡【短編】
エッセイ風短編。
隅田川を渡る船着き場「竹屋の渡(たけやのわたし)」での出来事。
まだ桜のつぼみも固い頃、早春の墨田堤へと向かうために主人公と友人は竹屋の渡を訪れる。
渡し船に乗り合わせた中には、婀娜な女性と若い美人の二人連れ。
船が岸を離れてからも華やかに戯れる二人であったが、ふいに一人が、「こんな好い景色の此処へ身を投げたらどうだろう」と問いかけるのだった―――。
黒猫・その7
黒猫・その6の続きエピソード。
盗賊の襲撃が、謎の女によって仕組まれた八百長だったことを知って絶望する富の市。
女はそんな富の市を憐みつつ、企てのいきさつを語る。
高嶺の花である武家の娘・お小夜への想いを遂げるためには、富の市自身が命を賭す覚悟が必要である。
その強い覚悟を見極めるための試練だったのだ。
謎の女は富の市に、想いを遂げたらきっと自ら命を絶つようにと迫る。加えてお小夜を富の市のもとに連れてくることを約束するのだったーーー
黒猫・その6
黒猫・その5の続きエピソード。
突然現れた謎の女は、千吉に富の市を襲わせた張本人だった。
しかもまた、女と富の市とは顔見知りだという。
女は事態を納得できない千吉を追い帰したのちに、富の市に事の次第を語り出す。
千吉を使って富の市を襲わせたのは、富の市の覚悟を見定めるため。その覚悟を感じ入った今、きっと富の市の想いを遂げさせてやろう、と改めて女は請け負うのだったーーー
黒猫・その5
黒猫・その4の続きエピソード。
富の市(とみのいち)のお小夜への敵わぬ恋と執着心に同情し、富の市を袖にしたお小夜に、怒りにも似た気持ちを抱く盗賊・千吉(せんきち)。
富の市が思いを遂げるために、千吉はひと肌脱ぐことを持ちかける。
そこへ婀娜な女が声をかけてきてーーー
黒猫・その4
盲人の富の市(とみのいち)は盗賊に襲われるが、恐るどころか、金品を奪っても良いから殺して欲しいと盗賊に懇願する。
富の市は盗賊に、横恋慕しているお小夜(さよ)への異様な執着を語り出すのだったーーー
黒猫・その3
黒猫・その2の続きエピソード。
清らかな優しさから盲人の富の市に手を差し伸べたお小夜(さよ)。
卑しい心を催した富の市に引き倒され、手籠にされそうになるが、寸でのところで釣りから帰った弟の秀松(ひでまつ)に助けられる。
怒りに任せて富の市を打ちのめそうとする秀松だったが、富の市が頭から血を流しているのを
見たお小夜は秀松を諌めるのだったーーー
※注※
岩波書店版全集では、原作が一部欠けたまま収録されています。
文章をできる限り再現するために物語の途中で終了していますが、不具合ではありません。
黒猫・その2
黒猫・その1の続きエピソード。
武家の娘・お小夜(さよ)のもとを訪ねた盲人の富の市は、なかなか帰る気配がない。
やがて辺りが暗くなり、お小夜たちは鮎釣りに出かけたまま戻らない弟・秀松のことが気にかかる。
お小夜は暮色の戸外に立ち出で、門の前を横切る小川の橋のたもとに佇みながら、秀松の帰りを待つのだった。
けたたましい音がして振り向くと、富の市が転んだ拍子に杖を流れに落としてしまっているのが見える。それは実は富の市の策略だったのだが、お小夜ははかりごとに気づかず、富の市に手を差し伸べるのだったーーー
黒猫・その1
武家の娘お小夜(さよ)は雄の黒猫を飼っている。
その目に入れても痛くないほどの溺愛ぶりにお小夜の母は、(物語「南総里見八犬伝」の中で犬と結婚した)伏姫を重ねてお小夜を揶揄する。
ある日お小夜の家へ盲人の富の市が訪ねてくる。
富の市は生まれつきの盲目ではなく、十六歳の頃に病で視力を失ったのである。
お小夜に恋焦がれる富の市は、慎みなく他家へと出入りをする。
そんな富の市をお小夜やお小夜の家のもの達は疎ましく思っていたがーーー
【泉鏡花】幼い頃の記憶【エッセイ】
鏡花自身が少年だった頃の忘れえない思い出を綴ったエッセイ。
幼かった鏡花少年は、母との船旅で乗り合いになったひとりの年若い女性と出会う。
色が白く美しいその女性は周囲に馴染もうとせず、どこか寂しげに、ひとり水面や空を見つめているのだった。
女性とのただ一度きりの邂逅は、夢か、現(うつつ)か、それとも前世の光景かーーー。
龍潭譚・その10~千呪陀羅尼(せんじゅだらに)~
龍潭譚その9・ふるさと のつづきエピソード。
魔処・九つ谺(ここのつこだま)から里へ帰った少年・千里(ちさと)。
自分の最大の理解者であった姉のことまでも信ずることができず
すべての物事に敵意と警戒心をむき出しにしながら過ごすうちに、心身共に衰弱してしまう。
ある日千里は担がれて遥か石段を登り、大きな門構えの寺の本堂に据えられた。
本堂では数人の僧侶が声を揃えて経文を唱えだす。
耳障りなその声に耐えかねて千里は僧侶の一人の頭を叩こうとした
その途端、青い一条の光が差し込んで千里の目をかすめ、胸を打つ。
千里がひるむと、若い僧侶がいざり出て本堂にある金襴のとばりを開く。
そこには、神々しい姿の仏像がたたずみ、優しく千里に微笑むのだった。
外は滝が落ちてくくるような激しい雷雨。風も渦巻いて吹き付ける。
怖ろしさのあまり、その胸にすがる千里。
千里を温かい腕で抱擁する姉。
柔らかな胸に抱かれているうちに千里の心は落ち着きを取り戻し、僧たちの陀羅尼(だらに)が心地よく響くのだった。
その夜の嵐によって、九つ谺は淵となり、水の底に沈んでしまったという―――
龍潭譚・その9~ふるさと~
【鏡花怪異譚】明治29年発表。
龍潭譚その8・渡船(わたしぶね)のつづきエピソード。
老人に伴われて沼を渡り、少年・千里(ちさと)は故郷へと帰ってくる。
家に戻った千里を待ち受けていたのは、嘗ては親しかった友人や親類縁者たちの奇異の目であった。
再会を焦がれた姉ですら、千里のことを神隠しに遭って気がふれてしまったものと思い込んでいる。
毎日周囲からののしられ、あざけられているうちに、千里自身も疑心暗鬼に陥ってしまう。
あの九つ谺(ここのつこだま)で逢った美女の許に逃げ出したいと
狂おしいまでに願うものの、思い空しく、千里は暗室に閉じ込められてしまうのだった―――
龍潭譚・その8〜渡船(わたしぶね)
龍潭譚その7・九つ谺(ここのつこだま)のつづきエピソード。
謎めいた美女の添い寝を受けながら少年・千里(ちさと)は夢うつつの心持ちで美女の寝姿に目を凝らす。
夜明け前の暗がりに浮かび上がる、仰向けに横たわる整った顔だち。
その守り刀を持った白い手を眺めているうちに、千里は自分の母が亡くなった日の姿と
美女を重ねてしまう。
死の影を払おうとして守り刀に手をかけると、刀の切羽が緩んで血汐がさっとほとばしった。
千里は慌てて流れにじむ血を両手で抑えようとするが、血汐はとうとうと流れ、美女の衣を赤く染めていく。
美女は変わらず静かに横たわっている。
はっと気づいて見定めると、衣を染めたと見えたのは
すずしの絹の着物に透けて映った、紅の襦袢の色であった。
日が高く上ったころに目覚めた千里は、昨晩あった老人に背負われて山を降りる。
美女はその後ろをついて歩く。
やがて大沼のほとりへとたどり着き、千里は老人に伴われて小舟に乗る。
一緒にと駄々をこねる千里だったが、美女は舟は気分が悪くなるから、と岸で見送るのだった。
舟は水を切るごとに目くるめくようにくるくると廻る。
岸で見送る美女が右に見え左に見え、千里は前後左右の感覚を失ってしまう―――
龍潭譚・その7〜九つ谺(こだま)〜
龍潭その6・五位鷺(ごいさぎ)のつづきエピソード。
水浴びから上がった美女は、千里に添い寝しながらいくつかの物語を語る。
やがて二人が居るこの場所が「九つ谺(こだま)」と呼ばれることを千里に伝えた美女は、自らの乳房を千里に含ませて眠りへと誘うのだった。
まどろんでいるところへ天井上、屋の棟あたりから凄まじい物音。美女が毅然と音の主を諌めると、音は次第に静まっていった。
それでも恐ろしさに震える千里に美女は、蒔絵箱から守刀を取り出して見せるのだったーーー。
龍潭譚・その6〜五位鷺(ごいさぎ)〜
【鏡花怪異譚】明治29年発表。
龍潭譚その5・大沼(おおぬま)のつづきエピソード。
森の中で気を失ってしまった少年・千里(ちさと)。
涼しげな香りに目を覚ますと、柔らかな蒲団の上に身体を横たえているのだった。
頭をあげて見渡すと、庭の先には、青々と濡れたように草の生い茂る山懐が広がっている。
滑らかに苔むした巌角(いわかど)に浮かび上がる、一挺の裸ろうそくの火影。
筧(かけい)から湧き上がるように零れ落ちる水をたらいに受け、一糸まとわぬ美女が向こう向きに水浴をしている。
山から吹き下ろす風にちらちらと揺れる火影に映ろう雪の膚(はだえ)。
千里の気配に気づいて立ち上がろうとした美女のふくらはぎをかすめて飛ぶ、真っ白い五位鷺。
悠然と千里のもとに歩み来た美女は、千里が夕暮れ時に追いかけて殺したのは毒虫だったこと、
その毒に触れたせいで顔が変わってしまい、迎えに来た姉が千里に気づかずに去ってしまったことを告げるのだった――――。
栃の実
金沢から北国街道を経由して東京へと向かう旅路での出来事を綴った、エッセイ的作品。
早朝に宿を出発した鏡花は、武生(たけふ)に着いたところで思案に暮れる。
その年の夏に起きた水害で崖崩れが起こったために、汽車も陸路も不通という知らせを受けていたからである。
ただ一つ、最も山深い難所ではあるが、栃木峠から中の河内(なかのかわち)を通る山越え路は通じているという。
覚悟を決め、険しい峠が重なる山へと一人で入っていくと
そこは想像以上の悪路であった。
田畑の作物は先の洪水でなぎ倒され、街道には流された大木が横たわっている。
加えて残暑の焼けつくような日差しに、鏡花は体調を崩してしまう。
やっとの思いで虎杖(いたどり)宿へと辿り着き、地元の親父に駕籠の手配を頼むと、快く出してくれるというーーー
栃の大木が生い茂る山中の描写は恐ろしくも神秘的。また、峠の茶屋の娘が山姫になぞらえられるなど、深山の幻想的な空気を漂わせた短編です。
厳しい自然と対をなすように土地の人々との温かい交流が描かれ、
タイトルにもなっている栃の実が印象的に用いられています。
龍潭譚・その5〜大沼〜
龍潭譚その4・あふ魔が時のつづきエピソード。
黄昏時に現れる魔物から逃れるように、社の片隅に逃げ込んだ少年•千里。
そこへ、千里を探す姉と爺やの会話が聞こえて来るのだった。出掛けにいつも行う魔除けのまじないを、今日に限ってしてやらなかった事を悔やむ姉。
姉への恋しさに耐えかねて表へ飛び出した千里。千里を見つけた姉はすぐに手を差し伸べるが、その顔を見た途端「人違い」と告げて去ってしまう。千里は水面に映る自分の顔が別人の如き相貌に変わっている事に気づき、慄くのだった。
絶望感に苛まれながら姉の背中を追いかけて無我夢中で走り回るうちに、木々に囲まれた森の中の大沼にたどり着いた千里は、そのまま倒れ込んで気を失ってしまうーー
龍潭譚・その4~あふ魔が時(おうまがとき)~
龍潭譚その3・かくれあそびのつづきエピソード。
夕闇の古社にあらわれた美しく謎めいた女性。
目くばせされるままに暗がりの片隅へと歩み入ったところで、千里は「黄昏時の暗い片隅には魔物が棲むゆえに近寄ってはならない」という姉の教えを思い出して背筋を凍らせる。
左手にある坂道の底からは闇のような瘴気が立ち上るよう。恐ろしさに身を震わせながら狭い社の中に逃げ込むと、冥界から遣わされた獣が社を横切る気配がする。
魔物から守るために女性が千里を暗がりへと導いたか、と思いを巡らせているところへ聞こえてきたのは、千里を探す使用人たちの声。人か魔か判じることが出来ないままやり過ごしていると、悲しげに千里の名前を呼ぶ、恋しい姉の声が―――
龍潭譚・その3〜かくれあそび〜
明治29年発表。
龍潭譚・その2~鎮守の社~のつづきエピソード。
夕暮れ時にたどり着いた神社の境内では、千里(ちさと)と同じ年ごろの子供たちがかくれあそびをして走り回っている。
「かたい」と呼ばれるこの集落の子供たちは、普段は千里たちと交流することはないが、人恋しい寂しさと安堵の気持ちから、千里は請われるままにかくれあそびの輪に加わる。
隠れる者を探す鬼役となった千里が顔を覆って待っていると、いつしか人の気配は消え、滝の音と木々を揺らす風の音がするばかり。
堂の扉も閉じられて、黄昏の境内に千里はひとり取り残されてしまう。
途方に暮れていると、いつの間にか千里の傍には美しい女性が微笑んで立っているのだったーーー。
龍潭譚・その2〜鎮守の社(やしろ)〜
【鏡花怪異譚】
明治29年発表。
龍潭譚その2・~躑躅か丘~のつづきエピソード。
躑躅の迷路に囚われてしまった少年・千里。
見渡す限りに咲き乱れる赤躑躅から逃れるため、大波のように起伏する坂道を走りまわるが、出口が見つからない。
日が暮れかかり肌寒くなるにつれ、心細さと姉恋しさは増すばかり。
泣きながら姉を呼ぶと、千里の声に応えるがごとく、遥か遠くに滝の音が聞こえた。
さらにその音の中に、隠れあそびをする子供の「もういいよ」の声。
声のする方を辿り、躑躅の迷路を抜けると、そこは鳥居に囲まれた社(やしろ)であったーーー
龍潭譚・その1~躑躅か丘~
【鏡花怪異譚】明治29年発表。
龍潭譚その1・躑躅ヶ丘
少年・千里は優しい姉の言いつけを肯(き)かずに、こっそりと家を出て遊びに行く。
燃え盛るように赤い躑躅の繁みへと足を踏み入れると、五色にきらめく美しい「毒虫」が千里の顔をかすめる。
毒虫退治に夢中になり躑躅の迷路を駆け回っているうちに、千里の視界は赤い躑躅ばかりに塞がれ、自分がどこから来たのか、どこへ行けばよいのかわからなくなってしまう―――。
妙の宮
「妙の宮」と呼ばれる山中の社に夜遅く肝試しに訪れた、美しい少年士官。
空まで続くような石段を登る半ばで、懐の金時計が鎖だけ残して消えていることに気づく。
山深い古社に湧き出る山清水。月明かりに浮かび上がる石段。社を守るように現れる蟹や蛇。
社殿に至り拝すると、回廊には幼い子供が手に金時計を持って遊んでいるのだったーーー。
人魚の祠【後編】
桃源郷のごとく幻想的な沼辺で、工学士が目にした風景。
靄に包まれた中に現れたのは釣りをする三人の美女の姿だった。
垂れた釣り糸にかかったのは、人形のように白く小さな少女。
同じ沼辺のほとりにある祠(ほこら)には、寝乱れた天女のような女と、
その身体にまとわりつく毛むくじゃらの三俵法師(さんだらぼうし)。
三俵法師と見紛うたのは、棕櫚(しゅろ)の毛を纏った男に飛びつく幾千の蚤の集団であった―――。
めまいを誘うような異形の思い出と、現代に会話する「工学士」と「私」。
二つの時間軸をむせ返るような甘い乳香の花の香りの描写が繋ぐ。
人魚の祠【前編】
【鏡花怪異譚】大正5年発表。
利根川流域の池沼で怪しい光景に出会ってしまった工学士の回想譚。
「私」と友人である工学士は、東京府下渋谷で開かれた茶話会に出席した。
会場の近くには名も知れぬ真っ白い花が咲き乱れていた。
あたりは燻したような濃く甘い香りに包まれ
小さな花弁が雪のように地面に降り積もっている。
茶話会の帰途、市電の車内にその花の香りが漂うと、
そこには赤ん坊を抱いた妙齢の女性が座っている。
女性を見た工学士は顔色を変え、
「利根の忘れ水」と呼ばれる大池でのかつての体験を語りだした。
たなびく靄に包まれたその場所では空と水が溶け合い、天地の分け目もわからぬ。
池のほとりにはとりどりの花が咲き、桃源郷のような景色が広がっていた。
ふと靄が途切れるように分かれると、そこには
華やかな友禅の着物を装った三人の女性がいるのだった―――。
処方秘箋
幼い頃の「私」が体験した、不思議にて怖ろしいはなし。
八歳の頃に住んでいた越後の紙谷町(かみやまち)は八百家後家(はっぴゃくやごけ)と呼ばれる、女所帯の多い街であった。
親しくしている近所の娘、お辻(つじ)の家に泊まりに行く途中の「私」は、怪しげな婦人(おんな)が営む薬屋の前で躓いて転んでしまう。
擦りむいた膝に薬をつけてやろうと言う婦人を振り切って逃げたその夜。
お辻と床を並べて休もうとしたその時、どこからか漂う薬の匂い。
気づくと部屋の中には裸蝋燭(はだかろうそく)を手にした薬屋の婦人が、青い薬の小瓶を片手に立っていた。
婦人の愛人である美少年に恋心を抱いてしまった、お辻の命を取るためにやってきたのだという―――。
婦人の姿は生霊か、それとも「私」が見た悪夢か。
紅提灯・その3
紅提灯・その2
眉かくしの霊・その5
【鏡花怪異譚】大正13年発表。
愛人である画師の汚名を雪(そそ)ぐために木曽奈良井宿を訪れた芸者のお艶(つや)は
夜中に悪名高い大蒜婆(にんにくばば)の屋敷を目指す。
料理人の伊作は、旅籠の提灯でお艶を守護するように雪の中を先導した。
途中で提灯の火が消えたために伊作がお艶を残して旅籠へ戻ろうとすると
闇の中で鉄砲の音が響く。
とっさに駆け寄ると、雪中に鮮血を滴らせながら倒れるお艶の姿。
ここまで語ると伊作の顔色がさっと変わった。
部屋の向こうにボウと灯る提灯が見える。
そこにはいるはずのない人物が―――
眉かくしの霊・その4
【鏡花怪異譚】大正13年発表。
木曽奈良井の旅籠に投宿した境賛吉(さかいさんきち)に、宿の料理人伊作は土地の因縁の物語を話して聞かせる。
それは一年前の冬に起こった間男(まおとこ)事件のこと。
土地の鼻つまみ者で代官婆(だいかんばば)と呼ばれる老婆と、けなげに尽くす若い嫁のもとに、老婆の息子の旧知の仲だという画師(えかき)が訪れた。
嫁と画師の不義姦通を疑い、両人に天誅を下すと老婆は息巻く。
逃げるように姿を消した画師と入れ替わるように木曽奈良井へと訪れた芸者・お艶(つや)。
実はお艶は、両人の不名誉を晴らそうとやってきた、画師の妾(めかけ)であった。